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the industrial

都内で働くITエンジニアの日記

ご自宅用ですか?

blog

タダの日記です。

書き足していったらだんだんカオスな文章になって行きました。

あらかじめご了承ください。


火曜日の昼、僕は地元の駅に立っていた。

この日は諸事情で実家に行く必要があったため、仕事は休みを貰った。

ここはいつ来ても僕を昔に引き戻してくれる。

そのついでといってはナンだが、二つの買い物を済ませる必要があった。

一つはCDを買う為だ。

「確かこのビルの上にタワレコが~、あれ、ない?あー、移転したのか」

この街に来るたびに懐かしいと思うが、新しいビルやお店も増えており、新鮮さも感じる。

そんなこの街が好きだ。

無事に目当てのCDを購入した僕だったが、2つ目の買い物。

ここからが本当の難問だ。

それはミッションと言っても過言ではない。

探すべく駅周辺をウロウロ。


お目当てのものはホワイトデーのプレゼントとして贈りたい、「嫁ちゃんと娘ちゃんでおそろいになるヘアピン」だ。

とあるデパートの中に、沢山のヘアピンが並べられたいわゆる”ギャル”が入りそうなキラキラしたアクセサリーショップを見つけた。

いつもなら素通りしてしまう様なお店だ。

よっぽどの事がない限り、僕がこの様なお店に入る事など無いと思っていた。

しかし、これだけ数のヘアピンが並べられているのだ、「嫁ちゃんと娘ちゃんでおそろいになるヘアピン」だってあるだろう。

今がその”よっぽどの事”なのだ。

意を決し、そのキラキラしたアクセサリーショップに入店した。

32歳の男が、平日の昼間からキラキラしたアクセサリーショップでキョロキョロ。

店員さんジロジロ。

この日は少し寒く、やや着こんで来たのだが、この変な汗は暖房だけのものではないだろう。

逆に、僕の心臓はこの日の気温に合わせるがごとく、ゆっくりと冷たくなっていった。

これほど緊張した買い物は無い。

不利な状況は続くものだ。

大切な事があった。

ヘアピンとはいえ、子供につけるものだ。

髪の毛を挟む鉄の部分は安全でなければいけない。

しかし棚に陳列された状態は、その鉄の部分が見えないのだ。

買わないものも手にとって確認する必要がある。

俺の様な男が、この商品の数々を手にとって、確かめても良い物なのだろうか。

悩んでいても仕方がない。

すべては嫁ちゃんと娘ちゃんの笑顔の為。

ひとつひとつ手にとって確かめていく。

一つ一つ裏返しては、鋭利に尖った鉄を確認し、大事に棚に戻す。

どのヘアピンも鉄の部分がむき出しで、危なくて娘ちゃんにはつけられそうも無い物ばかりだ。

仮に嫁ちゃんへのヘアピンをここで購入したとしても、赤ちゃん向けのヘアピン、それも嫁ちゃんとおそろいになる物が見つかるとは限らない。

なんだったらキラキラした店員さんに声をかけられ、相談に乗ってもらった方が数倍楽かもしれなかった。

しかし僕は、ロックに生きる”知らない女性恐怖症”を患った男。

自らを守るための鉄壁のイヤホンがそれをさせない。

ロックの定義というものは人それぞれ。

これだ!という実態の無いもの。

しかし確かにソコに、いつも傍にあるもの。

つまりロックとは、空気の様なもの。

空気無くしては人は生きられない。

NO MUSIC NO LIFE。

このイヤホンは外せない...。

そんなロックに生きる不器用な男は、已む無く退店したのであった。

その時、去り際に店員さんから放たれた「アリガトウゴザイマシター」は、3月に吹く寒い風よりも冷たく感じた。

当然だ。

32歳の男が、平日の昼間からキョロキョロしながら、女の子物のヘアピンを物色した挙句、何も買わずに退店したのだ。

テイラー・スウィフトがごとくボーダー柄のニットを着たキラキラした店員さん、あなたはキッチリ仕事をされている。

一つも間違っていない。

誰も悪く無い。悪くないんだ。

キラキラしたアクセサリーショップと言う名の線と、鉄壁のイヤホンと言う名の殻に閉じこもり、ロックをむさぼりながら、安っぽい”意を決して”入店した僕という名の線。

お互いに遠い所を並行して走るその線が、何の因果かロックに生きる男が愛に生きた故に探した、「嫁ちゃんと娘ちゃんでおそろいになるヘアピン」という名の特異点によって、少しだけ交わってしまっただけだ。

僕の心臓は鼓動を緩め、凍りかかっていた。

春はまだ遠い。


心臓は凍りかかり、身は朽ち果てても、「嫁ちゃんと娘ちゃんでおそろいになるヘアピン」を見つけるまであきらめる事は出来ない。

それはすべて、喜ぶ嫁ちゃんの笑顔と、嫁ちゃんと娘ちゃんの頭でまぶしく輝くおそろいのヘアピンを見るためだ。

仕切り直して、売り場案内看板を見る。

「7階 こども服 雑貨」

これだ!

「アリガトゴザイマシター」から逃げるがごとく、急ぎ足でエスカレーターに乗る。

エスカレーターのゆったりした上昇がもどかしい。

7階に降りると、フロア一面に広がる数々の子供服。

前を行くベビーカーの中では、何かを訴えかけるように赤ちゃんが泣いている。

おもちゃ売り場で遊ぶ小さな女の子を、温かく見守るお母さん。

キラキラした若い女の子向けのアクセサリーショップに比べると、落ち着く事この上ない雰囲気である。

赤ちゃん向けの雑貨を扱った店舗を覗くと、子供向けのヘアピンが沢山ぶら下がっている棚を見つけた。

まさに僕が求めていた様に、鉄の部分が布でくるまれており、赤ちゃんにも安全につけられる物が大半だった。

その中から、小さな白いリボンが付いたヘアピンを手に取り、娘ちゃんの顔を思い浮かべてみた。

自分の頬肉がほころぶのを感じた。

その小さな白いリボンが付いたヘアピンが、僕の身にまとっていた熱くて激しい、重厚なロックをはずし(イヤホンをはずし)た。

カウンターへと持っていく。

  店員さん「プレゼント用ですか?」

  俺「はい。」

  店員「どうぞ。ありがとうございました!」

先ほどの「アリガトウゴザイマシター」とは全く違う店員さんの態度と、娘ちゃんにぴったりの小さな白いリボンが付いたヘアピンを見つけた事に、凍りかかった僕の心臓が弱々しく、しかし確かに鼓動を始めた。

満足していたが忘れてはならない。

ゴールはあくまでも「嫁ちゃんと娘ちゃんでおそろいになるヘアピン」だ。

どうするか悩んでいた。

否、答えは既に出ているんだ。

弱々しく鼓動を始めていたのは、僕の凍りかかった心臓ではない。

次に進むべき道だ。

行く先は分かっていた。

キラキラしたアクセサリーショップだ。


キラキラしたアクセサリーショップ。

ロックに生きた男が、愛に生きるべく臨むもむなしく、敗れ去った地。

その地こそが、約束された彼の地、エルドラドだったのだ。

そしてそれは同時に、地獄とも呼ぶのだった。

エスカレーターで一つ階を下りる。

「アリガトウゴザイマシター」から逃げるためだったエスカレーターが、地獄への道に見えるとは、皮肉なものだ。

そして地獄への門が開かれた。

店員さんは一人増え、お客さんの数も増え、繁盛しているようで、さっきよりも雰囲気は遠い世界のようだった。

大きなヘアピン、小さなヘアピン、キラキラしたピアス。

それらはさながらケルベロスの3つの首が、業火を吐き出す如く、輝いていた。

ダメだ。

入店出来ない。

ここで帰っても、誰も僕を攻めないだろう。

俺は良くやった。

「ありがとう!」「あっきゃーばぶぅー!」

ふとその時、嫁ちゃんと娘ちゃんの声が聞こえた気がした。

俺は何をしていたのか。

いくら地獄の様な光景でも、本当の地獄ではない。

ただのアクセサリーショップだ。

男が入店したって誰も何も言わないだろう。

勇気を出すのはここだ。

「いらっしゃいませ~」

うん。やっぱりそうだ。

冷たいかどうかはすべて受け手が決める事だ。

決める方が勘違いをすることだってある。

先ほどの「アリガトウゴザイマシター」は、実は「ありがとうございました!」だったんだ。

初めはキラキラしたヘアピン一つ一つが墓標に見えたが、それも勘違いだ。

鉄壁の守りとも言えたロック(イヤホン)は、鍵という意味のロックだったんだ。

心に掛けた鍵がそうさせていたのだ。

そう気付いた時、ロックは音楽のロックではなく、鍵と言う意味のロックとして、自然と外れた。

なにも怖がる必要はない。

嫁ちゃん向けのヘアピンは、娘ちゃんへ買った小さな白いリボンが付いたヘアピンと似たものを選べばいいのだ。

嫁ちゃんは大人の女性だ。髪を挟む部分がむき出しの鉄だったとしても、何も問題は無い。

ゆっくり見ればいいんだ。

そしてすぐにそれは見つかった。

それはさながら、地獄の荒野に咲いた百合の花が如く、白く輝いていた。

娘ちゃん向けに買った小さな白いリボンが付いたヘアピンよりも、もう少し大きな白いリボンが付いたヘアピンだ。

これしかないだろう。

僕はそれを手に持ち、カウンターに向かった。

周りはキラキラしたアクセサリーと、お客さん。

男は俺一人。

しかし、娘ちゃんに買った小さな白いリボンが付いたヘアピンが、今は何よりもお守りになっていた。

大丈夫だ。

  僕「こ、これ、ください。」

  店員「ご自宅用ですか?」

  僕「...!?」

ご自宅用...。

この店員さんはどういう意味で「ご自宅用ですか?」と言ったのだろうか。

あれか、僕が女性に見えたか?もしくは女装趣味のある男に見えたか?

確かに言われてみれば、一つ屋根の下で暮らす「嫁ちゃんと娘ちゃん」に贈るものだから、「ご自宅用」でも間違ってはいないだろう。

しかし、男がヘアピンを買っているのだから、贈り物であることは明白だ。

そして圧倒的不利なこのバイオーム。

「いえ、ホワイトデーのプレゼントとして嫁ちゃんに贈り物を探していましたが、娘ちゃんも生まれたばかりですし、せっかくですのでおそろいの何かを探しておりまして、ヘアピンが良いかなと思いつき、さっき上の階で娘ちゃんに良さそうなヘアピンを見つけて買って来まして、そのヘアピンとお揃いになりそうなのがこのヘアピンですので、贈り物になるのですが、確かにおっしゃる通り一つ屋根の下で3人仲良く暮らしているので、自宅用と言えば自宅用です」

と説明するのも大変だったのと、合わない空気に背中がかゆいので、なんでもいいからさっさと済ませて欲しく思い

  僕「えーっと、は、はい。」

  店員さん「○円になります。」


うん。

少し整理してみたい。

ここは女性向けのお店。

女性客が来店する事を想定している。

なるほど、女性がアクセサリーを購入するのだから、贈り物として買うというよりは、自分用に買う事の方が圧倒的に多いだろう。

だから、相手がだれであろうと先ず「ご自宅用ですか?」と聞いたのか。

さらに、店員さんからしてみれば僕の状況など(+僕が男であるかどうかなども含めて)関係の無いはず。

なるほど、この店員さんはやっぱりプロだったのか。

というように思う事にしよう。


という話を酔っぱらって一気に書いてみた笑

まあなにはともあれ、無事にお目当てのものが買えてよかった。